槍は通すもの
- 投稿日:2023年 4月13日
- テーマ:その他
(2020.1.3 朝晴れエッセーへの投稿より)
*季節外れのお話ですが感動したので紹介します.
北日本で「ドカ雪」のニュースを見て、私は50年前を思い出した。
結婚相手の家族に会うため、1月2日に晴れ着で大阪発の
特急白鳥号8時発に乗車。隣の席には60歳代の紳士。
特急は新潟の糸魚川までやっとたどり着いたとき、
車内アナウンスで「猛吹雪で進めません。大阪へ戻ります」とのこと。
私は山形県まで行きたかったので、
「困ったなぁ。やりきれませんね」とつぶやいたら、
その人は「槍(やり)は切るものではありません。
通すものです。やり通しなさい。」
私は旅行の目的を語っていたので、続いて、
「貴女(あなた)は米原で下車して東京へ出て、東京からは...」
と親切に教えてくださった。
糸魚川の駅長室から彼の家へ電報を打ち、
相当時間遅れ遅れして、山形県に到着した。
その後、3月に挙式し、昨春、結婚50周年となった。
98歳の元気な兄や姉、妹に会いに行ったとき、
兄は「Y子さん、よくもったね」と言われたら、
主人はすかさず「お互いさまや」と笑った。
「槍通しなさい」と言われた初老の紳士にいま、再びお礼を言いたいと思った。
その人は、「大阪へ戻り、飛行機で北海道へ行きます」と語っておられたが、
今頃は天国におられると思う。
天国に向かって。
あの一言は大変な雪の中を、草履がズーっと沈むホームを進み、山形へ行きました。
いまの幸せがあるのは、あの一言「槍通しなさい」でした。
佐藤友伎子(79)
ある一言で人生が変わることが