男を伸ばすも殺すも女次第
安政のころ、江戸に大地震があった。
江戸の庶民が、せっかく苦心して建てた家が、つぎつぎに将棋倒しになった。
グラ、グラッ。大地震は、なんども、なんども、連続した。
大地震がやっと静かになった。ほとんどの家は、倒れたり、傾いたりしていた。
ところが、その中に、倒れもせず、傾きもしない家が数件あった。
不思議なことに、その壊れない家は、ある一人の大工が建てたものだとわかった。
その大工は名は「権次郎」といった。
人たちはみな権次郎の所へ押しかけ、なぜあなたの建てた家だけが壊れなかったかをたずねた。
「それは、わたしの力ではなく、弟子たちの力です。」
そこで、人々は重ねて
「ではどうして、そういう素晴らしい弟子たちを集めたのですか。」と聞いた。
権次郎は笑って
「それも、わたしの力ではなく妻の力です。」といった。
そこで、人たちはその奥さんにきいた。
「どうやって、こんなに素晴らしい弟子たちを集めたのですか。」
権次郎の妻はこう答えた。
「入門を希望する人があると、二、三日待たせ、その家を訪ねて必ず主婦に会って、次のことを調べました。
一つ、主婦が大工という職業を、心から大事な仕事だと思っているかどうか。
一つ、主婦が夫を深く信じて、敬愛しているかどうか。
一つ、主婦が拝金主義ではなく、心を信仰するひとであるかどうか。
一つ、主婦が口うるさくなく、やさしい人かどうか。
わたしは、この四つ以外、大工の技量など何一つ調べませんでした。」と・・・
これは男を伸ばすも殺すも女次第ということだが、
現代では家族の理解と協力があるか、ないかということだろう!
石川シュウジ